
訪問を得意先との「信頼構築」に変える科学的アプローチ
「知っている」から「使える」へ
私たちのブログ『丸尾くんの挑戦』では、一人の若手営業担当者が、様々な壁にぶつかりながら成長していく姿を描いています。物語の中で、彼は多く理論やフレームワークを学びますが、いつも最初からうまくいくわけではありません。知識を「知っている」ことと、現場で「できる」ことの間には、大きな隔たりがあるからです。
この「基礎用語の実践講座」では、そんな丸尾くんが直面したような「実践の壁」の正体を、理論的に、そして深く掘り下げていくことを目的としています。まずは基本となる知識を。そして、その知識を真の力に変えるための「思考のヒント」を。あなたも丸尾くんのように、一歩先のステージへ進むための、大切な何かを見つけていただければ幸いです。
1. バイヤーとの距離感が縮まらない
(事務所でその日の出来事を角井さんに相談する丸尾くん)
「ザイアンスの法則を信じてバイヤーとの接触頻度を増やすことを心がけているのですが、いつも会話がチグハグで・・・。今日はアイスブレイクで改装店の話を振ってみても全く反応がなくて・・・」
「そう。それは辛かったわね。でも、丸尾くん。ザイアンスの法則ってわれわれ食品メーカーの営業にそのまま当てはめるには少し工夫が必要なのよ。」
「え!接触頻度が大事ではないんですか?」
「もちろん接触頻度は大事よ。ただ、接触回数だけを増やせばいいって訳ではないの。だから、丸尾くんが良かれと思ってやっている『接触頻度を増やす』という行為だけでは、バイヤーとの関係性は良いものにならない可能性があるのよ・・・。」
2.ザイアンスの法則(単純接触効果)とは?
「ザイアンスの法則(単純接触効果)」とは、1968年にアメリカの心理学者ロバート・ザイアンスが提唱した心理効果です。
人やモノ、情報など繰り返し接触することで、警戒心が薄れ、親近感を抱きやすくなるという法則です。
人間関係では、初対面の相手には警戒心を抱きやすく接触回数が増えるほど警戒心が薄れていき肯定的な感情が芽生えるという説明に使用され、これが営業活動の文脈でも用いられることが多くあります。
営業の文脈では以下の事柄が強調されます。

この考え方自体は、特に初期の営業活動を円滑に進める上で非常に有効なものです。
しかし、です。
この法則を、食品メーカーのような「既存顧客との継続的な取引(ルート営業)」にそのまま当てはめようとした時、多くの営業担当者は、
『理屈はわかるけど、自分たちの営業活動には馴染まないような・・・。』
という、違和感を覚えるはずです。
3.なぜ、あなたは「ザイアンスの法則」に違和感を感じるのか?
あなたの訪問回数を「信頼残高」に変える
ザイアンスの法則に感じる「ある種の違和感」をもう少し掘り下げてみましょう。
「バイヤーとアポイントを取りたいと思っても必ずしも取れるわけではない」
「自分は定期的に商談を実施しているけど月に1回程度の頻度だ」
「そもそも引き継ぎだから、取引は継続しているので初対面だけと初回取引ではないような・・・」
このような違和感の正体は、ザイアンスの法則がわれわれのような継続的な取引の文脈ではなく、BtoCや新規開拓営業の文脈で語られることが多いからだといえます。
そのため、我々のような法人向けのルート営業にそのまま適用しようとすると、いくつかの「ズレ」が生じます。

この根本的な前提の違いを無視して、ただ機械的に接触回数を増やそうとすること。 それこそが、あなたの努力を空回りさせ、そして相手に「しつこい」という最悪の印象を与えてしまう根本原因なのです。
4.「接触回数」ではなく、「信頼」を築く
これまで見てきたように、ザイアンスの法則は営業に使える心理学の1つではあります。
しかしながら、違和感もある。では、どうすればいいのか。
このギャップを解消するための鍵。
それは、「信用」と「信頼」という、二つの似て非なる言葉の違いを理解することにあります。
「信用」とは、過去の実績や客観的なデータに基づく合理的で条件付きの判断です。
あなたの会社が、これまで築き上げてきたブランド力や取引実績。それらはすでに得意先からの「信用」を勝ち取っています。
しかし、我々が本当に目指すべきはその先にある「信頼」です。
「信頼」とは、あなたの人柄や未来への期待に基づく主観的で感情的な繋がりです。
食品の取引において、「誰から、買うかが重要である」というのは、まさにこの「信頼」が最終的な意思決定を左右するということです。
あなたが新任担当者として、あるいは新しいバイヤーと向き合う時。
会社の「信用」は、すでにそこにあります。
しかし、あなた個人への「信頼」は完全にゼロからのスタートなのです。
このゼロから「信頼」を築き上げていく、その過程にこそザイアンスの法則は応用されるべきなのです。
接触回数から信頼の総量へ。視点を変えれば世界が変わる
では、その「信頼」をどう構築するのか。
その答えは、ザイアンスの法則を「1対1の接触回数」という一次元的な視点から解放し、「接触人数 × 関係性の深さ」という掛け算で表される、組織全体の『信頼の総量』を、いかに最大化するかという、多次元的な視点へと切り替えることです。

接触人数の拡大は、バイヤーを起点として「n数を拡大させる」事を活動の1つの目標とします。
得意先の名刺を何枚持っているかをゲームにすると気持ち的に進めやすいです。
半期で名刺の枚数を5枚増やそう、1年で15枚増やそう。そんな目標を自分なりに立ててください。
次に関係性の質を高める事を考えてみましょう。
縦(上下)、横(他部署)との関係を広めて名刺の枚数が多ければいいというわけではありません。相手との関係性を以下の4段階で捉えて関係性の質を段階的に向上させることを意識しましょう。

定期的な接触、有益な情報の定期的な提供、得意先の課題解決への協力、私的な関係構築などを通じて関係性を進化させます。
そして、定期的な状況確認、変化への対応、新たな価値の提供、中長期的な取組などを通じて、関係性を維持、強化します。
食品メーカーの影響におけるザイアンスの法則の活用は、単にバイヤーとの接触頻度を増やすためでなく、「接触人数 × 関係性の深さ」を高めるために戦略的にアプローチすることで、継続的なビジネスチャンスを創出する入口といえます。
5.あなたの「存在」を相手の「日常」に
「なるほど…!ただ、バイヤーとの接触頻度を増やすだけじゃダメだったんですね…。私が、何となく感じていたザイアンスの法則に対する違和感も理解することが出来ました。バイヤーさんの上司や販促部、店舗のスタッフたち…。その全ての人たちとの『信頼残高』を少しずつ貯めていくということか…!」
「その通りよ、丸尾くん。そして、その信頼残高が溜まった時、初めてあなたはただの『業者さん』から、『〇〇さんちょっと相談があるんだけど…』と、声をかけられるかけがえのない『相談相手』へと変わるのよ。その一言をもらうための地道な活動。それこそがザイアンスの法則の本質なのよ。」
《「信頼残高」を、得意先との深い関係に変えたいあなたへ》
接触の質を高めていくと、次に見えてくるのは「どうすれば得意先に相談相手として選ばれるか」という問いです。
ザイアンスの法則は、信頼構築の「入口」に過ぎません。得意先から「ちょっと相談があるんだけど」と声をかけてもらえる営業になるには、接触の先にある思考と行動の型が必要です。
仕組みでメンバーを育てたいあなたへ
メンバーが育たない原因は、「教え方」ではなく「仕組み」にありました。
多くのマネージャーが悩む「指示待ち」や「形骸化した会議」 本書では、精神論ではなく「仕組み」で組織を変える方法を解説しています。
本記事のテーマでもある得意先との関係構築の具体的な進め方はじめ、日々の営業現場ですぐに使える具体的なノウハウが満載の一冊です。
あなたの営業担当者は、得意先に「相談相手」として選ばれていますか?
「業者さん」から「頼れるパートナー」へ。得意先との信頼関係を組織的に構築する仕組みをつくりたいとお考えであれば、私たちがその実現をサポートいたします。
