
あなたは、まだ「商品を売り込む」営業をしていませんか?
開発部の協力が決まってから、わずか1週間。 その日、メガマート本部の商談室で丸尾くんは、出来立てのPB試作品を手に再び島崎バイヤーの前に座っていた。隣には、物流とコストの最適化プランを携えた、三国食品の目黒さんも同席している。

「島崎さん、お時間をいただき、ありがとうございます。本日は、先日のテスト結果を踏まえた、我々からの最終提案をお持ちしました」
島崎バイヤーは、腕を組み、値踏みするような視線を向けている。「面白い結果が出たのは認めますが、インパクトが小さいという私の評価は変わりませんよ。何か、それを覆す策でも?」
「はい」と、丸尾くんは力強く頷いた。 「我々の提案は、もはや『アソートパック』のような小さなテストではありません。メガマート様の、今後の利益構造そのものを変革する新しいビジネスモデルのご提案です」
「アソートパック」から「ビジネスモデル」へ。提案の進化
丸尾くんは、テーブルの上にPBの試作品と自社のNB(ナショナルブランド)である商品Aを並べた。
「我々が現場で発見した、新しい優良顧客層。彼らのニーズに応えるため、我々は貴社専用のプライベートブランドを開発しました。これがその試作品です。」
島崎バイヤーが、驚きの表情で試作品を手に取る。わずか1週間での対応。そのスピード感に、彼の目の色が変わったのが分かった。
「そして、我々がご提案したいのは、このアイテムを単体で売ることではありません」
丸尾くんは、一枚のシンプルなグラフを提示した。そこには、2つの商品の売上と利益率が描かれている。
「我々のNBである商品Aは、集客力はありますが、利益率は決して高くありません。一方、このPB商品は貴社専用であるため高い利益率を確保できます。この2つを戦略的に組み合わせて販売するのです。」
「粗利ミックス」というパラダイムシフト
「どういうことですか?」島崎バイヤーが、身を乗り出して尋ねる。
「我々のNBを『集客の核』として、これまで通り販促も行いカテゴリーへの集客を維持します。そして、そのすぐ隣に利益率の高いこのPBを陳列する。そして、『品質と利便性を求めるお客様にはこちらがおすすめです』と、戦略的に誘導するのです」
それは、NBとPBを組み合わせた『粗利ミックス』という大胆な提案だった。 NBで「売上」と「客数」を稼ぎ、PBで「利益」を稼ぐ。カテゴリー全体として、売上を維持あるいは向上させながら利益率を劇的に改善させるというパラダイムシフトだった。
「…しかし、そんなことをすれば、あなた方のNBの売上は、PBに食われて落ちるのではないですか?」 島崎バイヤーが、もっともな疑問を口にする。
「はい。多少の影響は出るでしょう」と、丸尾くんは臆さずに答えた。 「しかし、PB商品も当社の製造商品です。この提案が成功すれば、このカテゴリーの利益は、確実に向上します。我々はそのためのパートナーになりたいのです」
従来の、1アイテムでも、1フェイスでも多く棚を奪おうとする、メーカー同士のゼロサムゲーム。 その不毛な戦いとは異なる視点に立つ提案だった。

目黒さんも、力強く補足する。「物流面も、我々三国食品が全面的にバックアップします。NBとPBを組み合わせた効率的な納品体制を構築し、店舗のオペレーション負荷も最小限に抑えます。」
島崎バイヤーは、言葉を失っていた。 目の前の若手営業が語っているのは、単なる商品提案ではない。それは、メーカー、卸、そして小売が、それぞれの強みを持ち寄り、一体となって新しい価値を創造するビジネスモデルそのものだった。
そして、その提案は「他社には、絶対にできません」と、丸尾くんは続けた。
「他社は、自分たちの売上を守ることが最優先です。我々のように、自社NBの売上が落ちるリスクを冒してまで貴社の利益を最大化する提案は構造的に不可能だと思います。」
「急成長されるメガマート様と、我々のような小回りの利く中堅メーカーだからこそできる、新しいパートナーシップです。この取組みは、他チェーンとの差別化に繋がりませんか?」
島崎バイヤーは、驚きと興奮を隠せない様子で前のめりになっていた。 「…面白い。これは本当に面白い。丸尾さん、あなたのその話、ぜひ当社の上層部にも直接聞かせてほしい。」
その言葉は、丸尾くんたちの提案がバイヤー個人の心を動かすだけでなく、メガマートという巨大な組織を動かす確かな力を持っていることを証明していた。
《今回の学び:プロダクト販売からソリューション提供へ》 この提案のパラダイムシフトは、もはや「商品(プロダクト)」を売っているのではない、ということです。「NBとPBの粗利ミックス」という、得意先の「利益構造を改善する仕組み(ソリューション)」を提案しています。
- 自社都合の排除: 自社商品の売上減というリスクを受け入れる。
- 顧客利益の最大化: 得意先の利益(粗利)を増やすことを最優先にする。
この視点の転換こそが、競合との差別化を生み、真のパートナーシップを築くための鍵となります。
《この物語の学びを、貴社の力に》
商品を売るのではなく、得意先のカテゴリー利益を改善する提案へ。NBとPBを組み合わせた粗利ミックスの発想は、「御用聞き営業」から「課題解決型営業」への転換を体現しています。貴社の提案は、得意先の利益から設計されているでしょうか。
次回予告
ついに掴んだ、上層部へのプレゼンの機会。それは、単なる商談ではない。メガマート、丸閥食品、三国食品、3社の未来を懸けた『取組会議』だ。伊藤部長と、旧知の仲であるメガマート・秋山部長とのトップ会談が実現する。現場で見つけた「一人の顧客」から始まった物語は、業界の常識を覆す、壮大なパートナーシップへと結実するのか?
次回、「【トップ営業】未来を共に創る『取組会議』」お楽しみに!