
あなたは、バイヤーを納得させて満足していませんか?その先の「組織」を動かす提案準備はできていますか?
「ぜひ、我々の上層部にも聞かせたい」
島崎バイヤーのその一言から、事態は驚くべきスピードで動き出した。 彼がすぐさま社内で調整を行い、セッティングされたのは、単なる部長クラスへのプレゼンではなかった。メガマートのカテゴリー戦略を決定する重要会議。そこに、丸閥食品が招聘されたのだ。そして、その報を聞いた伊藤部長が動いた。
「…そうか、秋山が出るのか」
秋山部長。それは、メガマートの成長を牽引する、商品本部のトップ。そして、伊藤部長が若い頃、別の会社でしのぎを削った、旧知の仲でもあった。
「丸尾、この会談には俺も出る。そして、三国食品の元口部長にも、同席を要請する」
単独プレゼンから「取組会議」への昇華
伊藤部長の決断で、その会議は丸閥食品の単独プレゼンから、メガマート、丸閥食品、三国食品の3社トップが一堂に会する『取組会議』へと、その意味合いを大きく変えた。アカウントマネジメントプロセス④「取組会議」。それは、未来を共に創るパートナーシップを誓う場でもあった。
当日、メガマート本社の重厚な役員会議室。 巨大なテーブルを前に、丸尾くんは、これまでにないほどのプレッシャーで手のひらに汗が滲むのを感じていた。対面に座るのは、噂に違わぬ鋭い眼光の秋山部長と、隣で腕を組む島崎バイヤー。そして、自分の隣には、伊藤部長、藤原課長、三国食品の元口部長、目黒さんという自社の未来を背負うトップたちが並んでいる。

最初に口火を切ったのは、秋山部長だった。 「伊藤部長、久しぶりだな。今日は、面白い話が聞けると、島崎から聞いている」
その言葉を受け、伊藤部長が静かに立ち上がった。 「秋山部長、本日はこのような機会をいただき感謝します。我々が今日お話ししたいのは、単なる新商品のご提案ではありません。急成長される貴社と、我々のようなメーカー、そしてそれを支える卸が三位一体となって、業界に新しい価値を創造するためのパートナーシップのご提案です」
そして、彼は丸尾くんに視線を送った。「では、具体的な話は、このプロジェクトを現場で率いてきた、私の部下から」
全ての視線が、丸尾くんに注がれる。 丸尾くんは、覚悟を決めて立ち上がった。
データからではなく、「1人の顧客」から始まる、成長の物語
「秋山部長、島崎バイヤー。私たちの提案は、たった1人のお客様から始まりました」
丸尾くんは、パワーポイントの画面に、統計データではなく、あの時、彼が店舗で撮影した「買い物かご」の写真を一枚、映し出した。

彼は、ID-POSの分析結果を語らなかった。 代わりに、仕事帰りの30代の女性が、広い店内で商品を探し回っていたこと。価格だけでなく、時間の価値を重視する新しい顧客層が存在したこと。その小さな「不満」を解消するために、チームが、そして会社がどう動いたかを一つひとつ、丁寧に語っていった。
「店舗での情報収集」を行った日々のこと。 「アソートパック」という小さな実験のこと。 現場のスタッフが心を動かしてくれたこと。 開発部が、過去の失敗を乗り越え、最高の試作品を創り上げてくれたこと。 そして、三国食品がその全てを支えてくれたこと。
それは、競合を打ち負かすためのプレゼンではなかった。 現場で見つけた「新しい顧客の物語」を、いかにして「新しいビジネスの物語」へと昇華させてきたかという、丸閥食品という組織の、成長のドキュメンタリーだった。
「私たちは、急成長される貴社と共に、この物語の続きを、創りたいのです」
情熱を込めて語り終えた丸尾くんの言葉に、会議室は静まり返っていた。
やがて、秋山部長が、重々しく口を開いた。 その表情は、島崎バイヤーが初めて見る満面の笑みだった。
「…面白い。実に、面白い提案だ。伊藤、お前は本当に良い部下を持ったな」
彼は、島崎バイヤーに向き直る。 「島崎、他社さんの提案も確かに素晴らしかった。だが、それは過去のデータの延長線上でしかない。彼らの提案は、我々の『今』を強くする。しかし、丸閥食品さんの提案は、我々の『未来』を創る可能性を秘めている」
「我々の成長には、こういう革新的なパートナーこそが必要だ。この話、前向きに進めよう」
その一言は、単なる商談の成功を告げるものではなかった。 それは、丸閥食品がメガマートにとって、かけがえのないパートナーとして認められた歴史的な瞬間だった。
《今回の学び:アカウントマネジメントプロセス④「取組会議」の重要性》 重要な意思決定には、必ずトップレベルのコミットメントが必要です。今回の「取組会議」は、単なるプレゼンの場ではなく、3社のトップが未来のビジョンを共有し、パートナーシップを誓う場でした。現場からのボトムアップの動きと、経営層によるトップダウンの動き。この両輪が噛み合った時、組織は初めて大きく動き出します。
《この物語の学びを、貴社の力に》
個人の商談を、会社対会社の取り組みに昇華させる。丸尾くんたちが実現したトップ巻き込みのプロセスは、重要顧客との関係を質的に変えるアカウントマネジメントの核心です。貴社の営業は、上層部を戦略的に動かせているでしょうか。
次回予告
トップ会談での大絶賛。しかし、野心的な秋山部長が下した決断は、チームの想像をさらに超えるものだった。MAX食品の牙城を崩すのではなく、その隣に、新たな価値創造の実験場『PB Lab』を創設する。競合排除ではなく、新しい価値を創造する「革新の場」としての『合意』とは?真のパートナーシップが、今、形になる。