
あなたは、予算や前例がないことを理由に新しいアイデアを諦めていませんか?
「MAX食品さんが見過ごしている、メガマートさんの新しい顧客ニーズ。ここが、我々の突くべき一点だ」
角井さんの言葉で締めくくられた前回の会議を経て、広域営業部の作戦室は、再び創造の熱気に包まれていた。アカウントマネジメントプロセスは、②「提案機会探索」から、いよいよ③「プランニング」のステージへと移行する。発見したインサイトを、どうやって具体的なアクションに落とし込むか。チームの真価が問われる局面だった。
インパクト・低コスト・スピード感。常識を打ち破る一手はないか?
「この『商品AとBを併売する』というアノマリーを、どうやってメガマートさんに伝え価値を証明するか…」藤原課長が腕を組んでホワイトボードの分析結果を睨む。
「普通に考えれば、両商品を近くに陳列する『クロスMD(マーチャンダイジング)』の提案が筋だろうな」 伊藤部長が、現実的なアプローチを口にする。
しかし、丸尾くんは首を横に振った。「いえ、それではインパクトが弱いと思います。売場変更は時間もコストもかかりますし、MAX食品さんがいるカテゴリーで我々の提案がすんなり通るとは思えません」
ハトー屋での経験が、彼に慎重さとより大胆な発想を与えていた。 「もっと、低コストでスピード感があって、何よりメガマートの島崎バイヤーが『面白い!』と飛びつくような見たことのないやり方はないか…」
丸尾くんは、デスクに並べられた商品Aと商品Bをじっと見つめた。そして、まるで天啓のように一つのアイデアが閃いた。
「…そうだ!いっそのこと、この2つをくっつけちゃえばいいんだ!」
常識を疑え。販促ではなく「実証実験」を提案する
「くっつける?」 伊藤部長が、怪訝な顔で聞き返す。
丸尾くんは興奮を抑えながら、そのアイデアを具体的に説明し始めた。 「はい。例えば、この商品Aと商品Bを専用の結束バンドか、透明な小袋に入れて一つの商品として売るんです。『お試しアソートパック』みたいな名前で!」

会議室が、一瞬静まり返った。 それは単純だが前例のない、まるで子供の遊びのようなアイデアだったからだ。
しかし、その静寂を破ったのは、角井さんだった。彼女の目がキラリと輝いていた。 「…面白いわね、丸尾くん。すごく面白い」
彼女は、ホワイトボードに素早くペンを走らせた。 「これは、単なる販促じゃない。私たちが発見した『新しい顧客ニーズは本当に存在するのか?』という仮説を証明するための、壮大な『実証実験』になるわ」
角井さんの言葉で、チーム全員の思考が切り替わった。 そうだこれは販促じゃない。実験なんだ。
「なるほど…!」藤原課長も膝を打つ。「売場変更のように大掛かりな準備は不要。結束バンドと少しの手間だけで、すぐにでも始められる。まさに、我々の強みである『スピード』を活かせるプランだ。これぞ弱者の戦略だな」

角井さんは、さらにその戦略的意義を深掘りする。 「それに、このプランはMAX食品さんには絶対に真似できないわ。彼らのプライドが、自社商品と他社商品を物理的に結束するなんて絶対に許さないから。そして何より、この実験が成功すれば、私たちは『新しい顧客ニーズを発見して証明した』という、誰にも奪われない実績を手にすることができる」
伊藤部長も満面の笑みで頷いた。 「いいじゃないか!最高に面白い!失敗したって失うものはほとんどない。だが、成功すればメガマートの度肝を抜くことができる。よし、そのプランでいこう!」
成長チェーンであるメガマートの変化する顧客ニーズ。 その一点を突くために生まれた、常識外れのプラン。
それは、限られたリソースの中で知恵を絞り自分たちの「弱み」すら「強み」に変える、丸閥食品ならではの戦い方の狼煙だった。 チームは、このユニークな「仮説」を手に再びメガマートの門を叩く決意を固めた。
《今回の学び:リーン・スタートアップ的思考》 今回の『アソートパック』は、完璧な商品を開発してから市場に出すのではなく、「最小限のコストと時間で、仮説を検証するための実用最小限の製品(MVP)」を作り、市場の反応を見るという、リーン・スタートアップの考え方に通じます。これは、リソースの限られた中堅メーカーが、リスクを抑えながら新しい挑戦をするための極めて有効なアプローチです。
次回予告
完成した常識外れの「奇襲プラン」。しかし、これをあの冷静沈着な島崎バイヤーに、どうやって納得させるのか?丸尾くんは、データではなく「物語」で勝負を挑む。現場で集めた顧客の生の声は、バイヤーの心を動かすことができるのか?運命のプレゼンが、今、始まる。