
あなたは自分の仕事の成果を、「売上」という一つの物差しだけで測っていませんか?
「丸尾くん、すごいわ!見て、この数字!」
週明けの月曜日。広域営業部の会議室に、角井さんの興奮した声が響き渡った。彼女が指し示すPCの画面には、先週末までのメガマート・テスト店舗の販売データが表示されている。
現場スタッフの協力のもと、エンドで展開された『アソートパック』
その結果は自分たちの想像を遥かに超えるものだった。
単なる完売ではない。「顧客創造エンジン」としての成果
まず、用意した100個の限定パックは、わずか2日間で完売。 しかし、角井さんが本当に興奮していたのは、そこではなかった。
「重要なのは、ここからよ」

彼女は、PCの画面を切り替えた。そこに映し出されていたのは、アソートパック購入者のその後の購買行動を追跡したデータだった。 「店舗での情報収集」作戦で顔見知りになった顧客に購入後のレシートを見せてもらうという、地道なアナログ調査で集めた貴重なデータだ。
「見て。パックを購入したお客様の実に7割以上が、翌週商品Aと商品Bを個別にリピート購入しているわ。そして、その中にはこれまでどちらの商品も買ったことがなかった『新規のお客様』が3割も含まれている」
つまり、あのアソートパックは単なる一過性の販促ではなかった。 それは、これまで満たされていなかった潜在顧客を掘り起こし、彼らを新しい定番商品のファンへと変える強力な「顧客創造エンジン」として機能していたのだ。
「すごい…」丸尾くんは、自分の立てた仮説が見事に実証されたことに静かな感動を覚えていた。
利益率8%向上。売上よりも雄弁な、「価値」の証明
「まだ驚くのは早いわよ」 角井さんは、悪戯っぽく笑うと、最後の、そして最も重要な分析結果を提示した。
アカウントマネジメントプロセス⑦「効果測定・問題抽出」
角井さんは、このフェーズで単なる売上だけでなくより多角的な視点で成果を分析していた。
「この2週間、テスト店舗の『あのカテゴリー』全体の利益率を計算してみたの。結果は…、前月比でプラス8%。客単価もわずかだけど確実に上昇しているわ」
利益率8%向上。 その数字が持つ意味をチームの誰もが理解していた。
MAX食品の派手な値引き販促は確かに大きな「売上」を作る。しかし、その裏でカテゴリー全体の利益率は確実に蝕まれていたはずだ。 一方、自分たちの『アソートパック』は売上の伸びこそ限定的だが値引きに頼らず、むしろ高粗利商品との同時購入を促進することでカテゴリー全体の「儲け」を増やすことに成功したのだ。
「これこそが、我々がメガマートさんに提供できる本当の価値よ」
角井さんの言葉に伊藤部長も藤原課長も深く、そして満足そうに頷いた。
その日の午後、丸尾くんがテスト店舗に御礼の挨拶に訪れると先日まで非協力的だった店長が笑顔で彼を迎え入れた。
「丸尾さん、やったじゃないか!あの日以来、あの辺りの売場の雰囲気が全然違うんだよ。お客さんからも、『あのセット、またやらないの?』って声をかけられてるんだ」
バックヤードでは、パートさんたちからも「面白かったわよ、ああいうの!」「次は何やるの?」と、次々と声をかけられる。 彼らはもはや「面倒な仕事を持ち込むメーカーの営業」ではなく、「一緒に店を面白くしてくれる頼もしいパートナー」として丸尾くんを見ていた。

売上、利益率、リピート率といった「定量的なデータ」 そして顧客や店舗スタッフからの「定性的な声」
その両方があの日現場で発見した「アノマリー」が、急成長するメガマートに眠る本物の「金の卵」であったことを雄弁に物語っていた。 この確かな手応えがあれば、島崎バイヤーにも自信を持って報告できる。丸尾くんはそう確信し本部へと向かった。
《今回の学び:多角的な成果指標(KPI)の設定》
アカウントマネジメントプロセス⑦「効果測定」の鍵は、成果を多角的に捉えることです。売上だけでなく、「利益率」「客単価」「新規顧客獲得率」「リピート率」、そして「顧客や現場の声」といった定性的な指標も組み合わせることで、提案の本当の価値を証明できます。特に「利益」は、チェーン経営の根幹に関わる最も説得力のある指標です。
次回予告
完璧なテスト結果を手に、意気揚々と島崎バイヤーに報告する丸尾くん。しかし、バイヤーの反応は、予想外に複雑なものだった。「結果は素晴らしい。しかし…」。成長チェーンならではの「慎重さ」という、新たな壁が立ちはだかる。戦術の成功を、どうすれば「戦略レベルの勝利」に繋げられるのか?チームは、より革新的な一手を探し始める。
次回、「【戦略と戦術】バイヤーの越えられない壁」お楽しみに!