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アカウントマネジメント実践編 第11話【価値創造】「PB共同開発」という切り札

あなたの会社の引き出しの奥に、過去の「失敗」という名の、未来の「資産」が眠っていませんか?

「戦術では成功した。しかし、戦略レベルでは物足りない…」

角井さんのその言葉が、メガマートとの商談から戻ったチームの現状を的確に表現していた。『アソートパック』という一点突破の奇策は、確かに成果を上げた。しかし、それは巨大な城壁に、小さな傷をつけたに過ぎなかった。城門をこじ開けるには、全く新しい、より強力な「解決策」が必要だった。

過去の「失敗」という名の未来の「資産」

広域営業部の会議室。再び、デブリーフィング会議が開かれていた。 ホワイトボードには、「より大きなインパクト」「革新的なアプローチ」という、島崎バイヤーから突きつけられた課題が、重々しく書かれている。

「アソートパックの規模を、単純に拡大するだけでは意味がないな…」 「かといって、MAX食品さんのような大規模な販促は、我々のリソースでは不可能だ…」

藤原課長と丸尾くんの議論は、堂々巡りを繰り返していた。有効な次の一手が見つからないまま、時間だけが過ぎていく。誰もが思考の袋小路に迷い込んでいた。

その重い沈黙を破ったのは、これまで腕を組み、静かに議論を聞いていた伊藤部長だった。

「…なあ、お前たち」

彼は、まるで遠い過去を懐かしむような目で、天井を見上げながら言った。

「昔、俺がまだ課長だった頃の話だ。あるチェーンと、鳴り物入りでPB(プライベートブランド)の開発を進めたことがあった。結局、最後の最後で先方のトップの一声で、その話は全部ひっくり返ったんだがな…」

それは、伊藤部長にとって、忘れられない大きな失敗の一つだった。 「その時、開発の連中には本当に迷惑をかけた。だが、あいつらが作った試作品の出来は、今思い出しても惚れ惚れするほど完璧だった…」

その瞬間、会議室にいた全員の思考が一点に集中した。 丸尾くんが、恐る恐る口を開く。 「部長…そのPBというのは、もしかして…」

伊藤部長は、ニヤリと笑った。 「ああ。お前たちが今回見つけた『アノマリー』、つまり商品Aと併売されていた、あの商品B。あれと、そっくりのコンセプトだったんだ」

「戦う」から「共に創る」へ。競争のルールを変える、新しい土俵

会議室の空気が、一気に変わった。 絶望的な袋小路の先に、一条の光が差し込んだようだった。

角井さんが、興奮を抑えきれない様子で、ホワイトボードに向かう。 「部長、それです!私たちが探していた『革新的な一手』は!」

彼女は、猛烈な勢いで、新しい戦略の図を描き始めた。

「私たちがやるべきことは、もうアソートパックの拡大じゃない。商品Bそのものを、メガマート様専用のPBとして、私たちが共同開発するんです!」

その大胆な発想に、藤原課長が「しかし、PB開発はリスクも大きいぞ」と慎重な声を上げる。 だが、角井さんの思考はさらにその先を見据えていた。

「ええ。でも、考えてみてください。今のメガマートさんは、急成長の過程で、他チェーンとの『差別化』を強く求めているはずです。自社だけのオリジナル商品(PB)は、そのための最強の武器になります」

彼女は、MAX食品と丸閥食品、そしてメガマートの関係性を図に描く。

「これまでの私たちは、MAX食品さんと同じ棚の中で、シェアを奪い合う『競争相手』でした。でも、PBの共同開発パートナーになれば話は全く変わります。私たちは、メガマートさんと同じ船に乗って共に新しい価値を創造する仲間』になれるんです」

それは、競合と「戦う」という、これまでの土俵そのものを覆す発想だった。 MAX食品という王者が支配するレッド・オーシャンから抜け出し、「PB開発」という、まだ誰もいないブルー・オーシャンを、自ら創り出す。

「そして、そのPBと我々のNB(ナショナルブランド)である商品Aを組み合わせることで、メガマートさんの売場に他社には絶対に真似できない、独自の価値と、高い利益率をもたらすことができる…!」

伊藤部長が、力強く拳を握りしめた。 「そうだ…。これこそが、あの野心的なメガマートに響く、究極の提案だ」

過去の失敗という名の「埋もれた資産」 現場で見つけた「顧客の真実」 そして、会社の壁を越えた「パートナーシップ」という新しい発想。

それら全てが一つに繋がり、巨大な敵を打ち破るための切り札となりうるプランが、今、まさに産声を上げようとしていた。 チームは、開発部に眠る「幻のレシピ」を探し出すため、すぐに行動を開始した。


《今回の学び:「戦う」から「共に創る」への視点転換》 課題解決の行き詰まりは、視点を転換するチャンスです。チームは、「競合の棚をどう奪うか」というゼロサムゲームから、「得意先と、まだ市場にない新しい価値をどう創り出すか」というプラスサムゲームへと、思考の土俵そのものを変えました。この「価値共創」の視点こそ、競合との差別化を図り、独自のポジションを築くための鍵となります。

次回予告 

【次回予告】 逆転の一手、「PB開発」。しかし、その前には「過去のトラウマ」という、社内の分厚い壁が立ちはだかる。開発部長は「二度と同じ轍は踏まない」と猛反発。組織の壁を前に、伊藤部長が下した、ある「覚悟」とは?そして、三国食品の目黒さんを巻き込んだ、全社を挙げたスピード勝負が始まる!

次回、「【社内交渉】部長たちの攻防」お楽しみに!