新連載「800字の仕事術」数字に強い営業になる 第5回「AAR(振り返り):その「でも」が、あなたの成長を止めている」をアップしました ! !  〜 第10回まで現場で使える「数字」のコツやヒントを解説します☝️

アカウントマネジント実践編 第8話【協業】現場の心を動かす、たった一つのこと

あなたの完璧なプランが、現場で「面倒な仕事」だと思われた時、どうしますか?

「面白い。やってみましょう」

メガマートの島崎バイヤーから、実証実験の許可を得た日。広域営業部は、久しぶりの明るい雰囲気に包まれた。「よくやった、丸尾!」 「すごいじゃないか!」 藤原課長や角井さんから労いの言葉を受け、丸尾くんも「これで、反撃の第一歩を踏み出せる」と、胸を熱くしていた。アカウントマネジメントプロセス⑥「実務の協業」のスタートだ。

しかし、その高揚感が、現実の壁の前にもろくも崩れ去るのに、時間はかからなかった。

「余計な仕事」と拒絶される、完璧なプラン

テスト店舗に指定されたメガマートの旗艦店。丸尾くんは、手作りの「アソートパック」と、企画意図を説明した手書きのボードを手に意気揚々と店のバックヤードを訪れた。

「私は丸閥食品の丸尾と申します!本日より、こちらの企画を実施させていただくことになりました。」 しかし、店長や部門担当者の反応は、驚くほど冷ややかだった。

「ああ、バイヤーから聞いてるよ。で、それをどこに置くの?うちの売場、もうスペースないんだけど」 「また新しいこと?こっちはただでさえ人手不足で忙しいんだよ」 「そのパック、誰が作るの?まさか、うちにやらせるんじゃないだろうね」

悪気はない。しかし、彼らの言葉の端々からは、「面倒な仕事を増やすな」という、あからさまな拒絶反応が漂っていた。 そうだ。急成長を続けるメガマートの現場は、常に活気に満ちているが、それは裏を返せば日々の業務と本部から次々と下りてくる指示に忙殺されているということ。彼らにとって、1メーカーの、しかも成果の保証もない小さなテスト企画など「余計な仕事」でしかなかったのだ。

丸尾くんは、企画の意義や、顧客にとっての価値を必死に説明した。しかし、忙しい彼らの心には全く響かない。 結局、アソートパックは売場の隅のほとんど客の目に触れないワゴンに、申し訳程度に置かれることしかできなかった。

「…どうすれば、協力してもらえるんだろう」 その日の帰り道、丸尾くんは完全に自信を失っていた。どんなに良いプランも、現場が動いてくれなければ絵に描いた餅だ。

「理屈」の前に「人間」。現場の心を動かす、たった一つのこと

事務所に戻り、伊藤部長に今日の出来事を報告すると、彼は「だろうな」と、全てを予期していたかのように頷いた。

「丸尾、お前は大きな勘違いをしている。現場の人間は、『正しいこと』だから動くんじゃない。『この人のためなら、一肌脱いでやろう』と思うから動くんだ」

伊藤部長は、自分のデスクから缶コーヒーを2本取り出すと1本を丸尾くんに手渡した。

「いいか、明日もう一度その店へ行け。そして、企画書も商品も出すな。ただ、バックヤードで店長やパートさんたちと、この缶コーヒーでも飲みながら5分世間話をしてこい」

「世間話、ですか…?」

「そうだ。今日の売上はどうだとか、最近しんどいことはないかとか、子供さんの受験はどうなったとか、何でもいい。理屈じゃない。まず、お前という人間を彼らに知ってもらうんだ。成長チェーンの現場は忙しい。だからこそ、彼らは自分たちの苦労を本当に理解してくれる、価値のある提案しか聞く耳を持たないんだよ。」

そのアドバイスは、あまりに前時代的で非効率に思えた。しかし、今の丸尾くんにはそれにすがるしかなかった。

翌日、丸尾くんは言われた通り、手土産の缶コーヒーだけを持って再び店のバックヤードを訪れた。 「昨日は、お忙しいところありがとうございました。少し休憩しませんか?」 最初は訝しげだった店長も、彼の真摯な態度に少しずつ警戒心を解いていった。

それから、丸尾くんはほぼ毎日店に通い詰めた。商品の補充を手伝い、品出しの邪魔にならないように売場を観察し、休憩時間にはパートさんたちとお茶を飲んだ。彼が話すのは、商品のことではない。現場の苦労、喜び、そして彼らが「お客様にどうなってほしいか」という純粋な想いだった。

変化は、数日後に訪れた。 いつものようにバックヤードを訪れるとパートの一人が丸尾くんに声をかけてきた。

「丸尾さん、この前のパック面白いわね。私もねあの2つをいつも一緒に買うのよ。もっと目立つところに置けばいいのに」

その一言が、突破口だった。 店長も、「そこまで言うなら、少し場所を考えてみるか」と重い腰を上げてくれた。

それは、ロジックやデータがもたらした変化ではない。「お客様により良い買い物体験を提供したい」という丸尾くんの真摯な姿勢と、現場で働く人々の想いが初めて一つに繋がった瞬間だった。

店のスタッフの手によって、アソートパックは、売場の中でも目立つエンド棚に、手作りのPOPと共に陳列された。 本当の意味での「実務の協業」が、そして実証実験が静かに始まったのだ。


《今回の学び:実務の協業(プロセス⑥)における人間的側面》 
どんなに優れたプランも、実行する「人」の協力なくしては絵に描いた餅です。特に、日々の業務に忙殺されている現場にとって、新しい取り組みは「負担」と見なされがちです。伊藤部長のアドバイスは、正論や理屈で「説得」するのではなく、まず相手を理解し、人間的な信頼関係を築くことが、協業の第一歩であることを示しています。

次回予告 

 現場という最強の味方を得て、ついに本格始動した「アソートパック」実験。その結果は、チームの想像を遥かに超えるものだった。完売、リピート購入、そして利益率の向上…。データが「アノマリー」の正しさを証明する。角井さんも興奮する驚くべき成果と、店舗スタッフから寄せられる喜びの声とは?

次回、「【効果測定】利益率8%向上「売上」よりも雄弁な価値の証明」お楽しみに!