
新連載スタートにあたって
なぜ「決めの1枚」と「振り返り」が必要なのか
これまで3,000部以上の提案書を添削してきた中で、気づいたことがあります。
マーケティング部門が用意する資料が充実すればするほど、提案書は「どこの得意先にも出せる内容」に変わっていきます。マーケティング部門が良かれと思って充実させた提案書が、営業担当者の思考力を奪っているとしたら、あなたはどう思いますか。
「この提案書のどこで、バイヤーは納得するの?」
この問いに答えられる営業担当者を増やすために、この連載を始めます。
ポイントは2つです。
1つ目は、商談前に反論を予測し、バイヤーの懸念をメリットに変えた「決めの1枚」を準備すること。
2つ目は、商談後に仮説とのズレを問い直す「振り返り(AAR)」によって、経験を学びに変えることです。
この2つが、属人化した営業ノウハウを組織の力へと変えていきます。
商品情報を並べた「カタログ型提案書」
食品メーカーの営業現場で、今日も一生懸命に提案書を作っているあなたへ
手元にあるその資料は、どのような構成になっているでしょうか。
「製法や原料へのこだわり」
「トレンドをとらえた新しいフレーバーの採用」
「テレビ広告やSNSを用いたプロモーション」
このような、自社商品の魅力や強みに関するスライドが、きれいに並んでいないでしょうか。
私は、マーケティング部門や商品企画部が作成した、商品情報やスペックを中心に構成された提案資料を「カタログ型提案書」と呼んでいます。
もちろん、商品情報は必要です。問題は、それを説明するだけで商談が終わってしまうことです。
生成AIを使って企業や商品、市場に関する公開情報を短時間で収集・要約できる今、バイヤーも商談前に多くの情報を得られるようになっています。
営業担当者が「これは従来比120%のコクがありまして……」と熱心に説明しても、バイヤーにとっては「その情報は、すでに知っている」という時間になっているかもしれません。
バイヤーが本当に知りたいことは、いつの時代も変わりません。
「この商品は、うちの売場や売上に何をもたらしてくれるのか?」
商品の特徴ではなく、自社の売場や売上にどのような変化をもたらすのか。それを知りたいのです。
なぜ「商品紹介だけ」でも採用されてきたのか
それにもかかわらず、営業現場には今も「カタログ型提案書」があふれています。
理由はシンプルです。
商品紹介だけでも、これまでは「それなりに採用されてきた」からです。
競合メーカーも、同じように本部から支給された提案書を持って、同じように商品の説明をしています。バイヤーの側も忙しく、多くの情報や提案を処理しなければなりません。そのため、過去の実績や、既存の棚割りを大きく変えたくないという判断から、「いつもの商品紹介だけれど、今回はこれでいい」と採用を決めることがあります。
ここに、営業現場の1つの課題があります。 すべての提案が不採用にされるという「全落ち」ではないため、営業担当者も、従来のやり方を変える必要性を感じにくくなります。その結果、会社から支給されたスライドの束をそのまま商談へ持ち込み、順番に説明する「伝達係」になっていきます。
「それなりに採用される」という成功体験が、営業担当者から考える機会を奪ってしまうのです。
なんとなく採用されることが営業の思考を止める
会社が用意したスライドを順番に読み上げるだけでは、営業担当者は、いずれ自分の仕事の価値を見失ってしまいます。本人の可能性を狭めるだけでなく、何より、仕事のワクワクを奪ってしまいます。
一人ひとりの強みを最大限に「生かす」ために。
そして、AIが情報を要約する時代に、バイヤーから「あなたに相談したい」と指名される存在になるために。
ここで一度、食品メーカーの営業担当者が磨くべき営業の「力」について整理してみましょう。
食品メーカーの営業に必要な力は、大きく2つに分かれます。
- 組織攻略力(動かす力):
得意先の上層部を巻き込み、年間契約を結ぶなど、自社が優位に立つ状況をつくる中長期的な力です。 - 商談力(伝える力):
10〜15分という短い商談の中で、目の前のバイヤーに「この商品はうちの店に何をしてくれるのか」を瞬時に納得してもらう力です。
この連載で徹底的に磨き上げていくのは、後者の「商談力」です。
提案書の変革は「骨子づくり」から始まる
10〜15分という短い商談時間の中で、バイヤーを置いてけぼりにしない。
そのために、自分たちの商談の型をつくっていきます。
最初の一歩として、目の前にある「カタログ型提案書」をそのまま商談に持ち込むのをやめてみませんか。
多くの提案書は、言いたいことやスペックをただ順番に羅列しているだけで、結論と理由がかみ合っていません。論理を伝えるPREP(主張・理由・具体例・結論)の型で整理されていないことも少なくありません。
だからこそ、提案書の変革は、商談で何を伝えるのかという「骨子づくり」から始めます。
まず、今回の商談目的から逆算して、提案の骨子をPREPの型で組み立てる。次に、その骨子に沿って、本部が作ったスライドの束を見直す。
PREPのストーリーに必要なスライドは残し、直接つながらないスライドは、本編から思い切って「引き算」します。
商談前に行う、この小さな「PREPセルフチェック」が、
「この提案を伝えたら、バイヤーからどのような反論が返ってくるだろう?」
という、質の高い予測を生み出す土台になります。
なんとなく採用されるカタログ型提案書に身を委ねるのをやめる。まずはPREPで提案の骨子をつくり、その骨子に沿って不要なスライドを引き算することから、自分の商談の型をつくっていきましょう。
次回予告
本部が作った提案書から不要なスライドを「引き算」するためには、まず「何が必要か」を判断する基準が必要です。
次回は、その基準となる提案の骨子をPREPの型で組み立て、商談前に論理の抜けや漏れを点検する「PREPセルフチェック術」についてお話しします。