
「決めの1枚」をそのまま本番に持ち込まない
第8話では、バイヤーの懸念に対する解決策と得意先のメリットを、「決めの1枚」として提案書に落とし込む方法についてお話ししました。
「決めの1枚」が完成すると、すぐにでもバイヤーへ提案したくなるものです。
しかし、ここでもう一歩だけ踏みとどまってください。
私がこれまで食品メーカーの営業組織を支援してきた中で、本番前に卸の担当者へ提案内容を見せ、仮説を確認している営業担当者を数多く見てきました。
それが、卸の担当者との「事前商談」です。
経験の浅い営業担当者の中には、自分で考えた「決めの1枚」を誰にも見せず、そのまま本番に持ち込み、仮説がずれたまま不採用になってしまう人がいます。
一方、経験を積んだ営業担当者は、一人で商談の本番へ飛び込もうとしません。
商談の数日前に、卸の担当者へ、
今回の提案について、少し意見を聞かせてもらえませんか?
と資料を見せています。
卸の視点で提案の仮説を確認する
卸の担当者と事前商談を行う目的は、単なる挨拶や資料の共有ではありません。
自分たちが組み立てた、
低回転商品との差し替えと販促プランによって、1店舗あたり6日に1個の販売を目指す
という仮説が、本当にそのチェーンの売場で通用するのかを確認するためです。
卸の担当者は中立的な第三者ではありませんが、メーカーとは異なる立場から、得意先や売場を見ています。
例えば、次のように問いかけます。
〇〇さん、今回は既存の低回転商品と新商品を差し替え、この販促プランで「1店舗あたり6日に1個」の販売を目指し、カテゴリー売上の上積みを提案しようと考えています。このロジックは、バイヤーに響くと思いますか?
このように具体的に問いかけることで、卸の担当者から、メーカーには見えていない情報が得られることがあります。
この販促プランは、今の店舗オペレーションでは少し手間がかかりすぎるかもしれません。
今、バイヤーは競合チェーンとのカテゴリー売上の差を気にしています。こちらの切り口を強調した方が響くと思います。
こうした意見をもとに、「決めの1枚」のロジックや表現を本番前に修正します。
事前商談は、完成した資料の承認をもらう場ではありません。
自分たちが立てた仮説のズレを、本番前に見つけて修正するための場です。
本番で目指す「落としどころ」を共有する
事前商談のゴールは、資料を改善することだけではありません。
本番の商談で、
バイヤーがこう反応したら、どこまでの合意を目指すか
という「落としどころ」を、卸の担当者と事前に共有しておくことです。
例えば、全店導入が難しい場合は一部店舗でのテスト導入を目指す。次回の棚替えに間に合わない場合は、その次の導入時期について合意する。販促プランの実施が難しい場合は、店舗の負担を抑えた代替案を提示する。
このように、バイヤーの反応に応じた着地点を相談しておきます。
卸の担当者が本番の商談に同席する場合も、落としどころを共有していれば、役割分担が明確になります。
バイヤーから、
この販促プランは、本当に店舗で実施できるの?
と聞かれたとき、卸の担当者が得意先や店舗の状況を踏まえて、
この条件であれば、現場でも実施できると思います。
と補足してくれるかもしれません。
卸の担当者を単なる情報の伝達者として扱うのではなく、得意先との合意を一緒につくるパートナーとして力を借りる。
商談前にこの段取りを済ませておくことで、「決めの1枚」の仮説を修正でき、本番で合意に至る可能性も高められます。
一人で本番へ臨む前に、卸の担当者へ提案を見せる。そして、仮説のズレと商談の落としどころを確認する。
この事前商談を、自分たちの商談の型に組み込んでいきましょう。
次回予告
提案書作成術 第10回:商談後の5分で営業力が変わる『振り返り(AAR)』
商談が終わったら、採用・不採用という結果だけを見て、すぐに次の仕事へ移るのではありません。
次回は、商談前に立てた仮説と、実際のバイヤーの反応とのズレを商談直後の5分で振り返り、次の行動に生かすAARの方法についてお話しします。