
商談をやりっぱなしにすると経験が学びに変わらない
第9話では、本番前に卸の担当者へ「決めの1枚」を見せ、提案の仮説と商談の落としどころを確認する方法についてお話ししました。
そして、いよいよ商談本番です。
商談が終わった後、次のように気持ちを切り替えていないでしょうか。
提案書を出して、商談は終わった。不採用だったけれど、一生懸命やったから仕方がない。さあ、次の得意先の準備をしよう。
商談をやりっぱなし、提案書を出しっぱなしにして、すぐに次の仕事へ切り替える。
一見すると、忙しい毎日を効率よくこなしているように見えます。しかし、商談を振り返らないことが、いつまでも商談の質が上がらない一因になります。
どれほど時間をかけて提案書を作っても、商談の現場では想定どおりに進まないことがあります。
なぜ提案が通ったのか。
なぜ不採用になったのか。
事前に立てた仮説と、実際の反応はどこが違ったのか。
こうした問いを振り返らないまま商談の数だけを重ねても、同じ失敗を繰り返す可能性があります。
経験を積むだけで、自動的に学習が進むわけではありません。
商談を振り返り、次の行動を変えて初めて、経験が自分の力になります。
商談直後の5分でAARの4つの問いを振り返る
でも、何社も担当する中で、じっくり振り返りを書く時間はない。
そう思う人も多いでしょう。
そこで紹介したいのが、米陸軍で発展した振り返りの枠組み「AAR(After Action Review)」を、食品メーカーの商談向けにアレンジした方法です。
振り返りと聞くと、
反省文を書かされるのではないか。
上司へ提出する報告書が増えるのではないか。
と身構えるかもしれません。
しかし、ここで紹介するAARは、評価や報告のためのものではありません。自分の経験から学び、次の行動を変えるための振り返りです。
手帳やスマートフォンのメモに、次の4項目を書き留めます。商談直後の記憶が鮮明なうちに、駅のホームや、駐車した車の中で5分ほどあればできます。
1.今回の商談で何を目指したのか
商談前に設定した目的を確認します。
例:新商品〇〇について、次期棚替えでの定番採用を目指した。
2.実際に何が起きたのか
評価や推測を交えず、商談で起きた事実を振り返ります。
例:バイヤーから「商品コンセプトはよい」と評価された。一方で、「具体的に棚割りのどこに展開し、どの商品と差し替えるのか」と質問された際に明確に答えられず、採用については継続検討となった。
3.なぜ、それが起きたのか
事実をもとに、商談前の仮説と実際の反応がずれた要因を考えます。
例:提案する新商品に実績がないことが障害になると予測し、商品説明や商品の必要性を示すデータの準備ばかりに注力していた。その一方で、具体的な展開場所や差し替え商品まで検討できていなかったため、バイヤーの懸念に応えられなかったのではないか。
4.次はどうするのか
次の商談で変える行動を、具体的に決めます。
例:次回は、事前に棚割りと差し替え候補商品の販売状況を確認する。さらに卸の担当者と事前商談を行い、得意先に近い立場から意見をもらったうえで、具体的な展開場所と差し替え候補を整理して商談に臨む。
この4つを振り返るだけなら、およそ5分です。
長い反省文を書く必要はありません。大切なのは、次の商談で何を変えるかを決めることです。
商談前の仮説があるから「ズレ」を振り返れる
この振り返りが短時間でも機能するのは、商談前に反論や障害について仮説を立てているからです。
事前の仮説がないまま商談がうまくいかなかった場合、
最初から、バイヤーの機嫌がなんとなく悪かった。
バイヤーから「検討します」と言われたものの、結局不採用だった。
と、原因を曖昧にしたまま終わりがちです。これでは、次の商談で何を変えればよいのかが分かりません。
一方、事前に、「バイヤーは、新商品に販売実績がないことを最大の障害として捉えるのではないか」という仮説を立てていれば、実際の商談でバイヤーが示した反応と比較できます。
実際には、商品コンセプトそのものは評価されました。バイヤーが懸念したのは、販売実績よりも「棚割りのどこに展開し、どの商品と差し替えるのか」という、導入後の具体的な売場でした。
実際には、商品コンセプトそのものは評価されました。バイヤーが懸念したのは、販売実績よりも「棚割りのどこに展開し、どの商品と差し替えるのか」という、具体的な売場への落とし込みでした。
ここで、商談前の仮説と実際に起きたことを、次の視点から振り返ります。
- 予測したバイヤーの懸念は合っていたのか
- 懸念の背景にある要因を正しく捉えていたのか
- 「決めの1枚」は懸念に応えられていたのか
- 卸の担当者との事前商談で見落としたことはなかったか
このように仮説と事実を比べることで、両者の「ズレ」が見えてきます。
ただし、商談直後に考えた原因も、まだ仮説です。バイヤーの表情や言葉だけから、「これが本当の原因だ」と決めつけてはいけません。
必要であれば、卸の担当者に意見を聞いたり、次の商談でバイヤーに確認したりしながら、仮説を修正していきます。
採用・不採用という結果に一喜一憂して終わるのではなく、なぜその結果になったのかを振り返り、次の行動を1つ変える。
この5分間のAARを習慣にすると、
どのような提案をしたとき、バイヤーはどこに反応したのか。
どの仮説が合っていて、どこがずれていたのか。
という、生きた商談の知見が自分の中に蓄積されていきます。
事前に予測した障害と、実際にバイヤーが懸念したことのズレを見つける。そして、次の行動を変える。
この小さな繰り返しが、自分たちの商談の型を進化させていくのです。
次回予告
提案書作成術 第11回:商談中に自分を客観視する『メタ認知』の磨き方
商談後のAARを繰り返していると、商談の最中にも、自分の話し方やバイヤーの反応に気づけるようになります。
次回は、商談中に自分と相手の様子を客観的に捉え、バイヤーの反応に合わせて対話を修正する力についてお話しします。