
自分の話し方を一段引いて捉える
第10話では、商談前に立てた仮説と、実際にバイヤーが示した反応とのズレを、商談直後のAARで振り返る方法についてお話ししました。
商談の場で、こちらの伝えたいことを一方的に話してしまい、バイヤーが引いていることに気づかなかった。そんな経験はないでしょうか。
特に、自信のある商品を提案しているときほど、説明に熱が入り、周囲が見えなくなりがちです。
こうした状況を防ぐために必要なのが、商談中に、
今、自分はどのような状態になっているか。
自分の話し方は、相手にどう受け止められているか。
と、一段引いて自分を捉える力です。
心理学では、自分の考えや感情、行動を客観的に捉え、必要に応じて調整することを「メタ認知」と呼びます。
商談をしている自分を、もう一人の自分が少し離れたところから見ているような感覚です。
今、バイヤーから断られるのが怖くて、話すスピードが速くなっている。
一方的な商品説明が続いている。ここで話を止めて、質問してみよう。
このように、自分の状態に気づき、その場で話し方や進め方を変えることが、商談におけるメタ認知です。
AARの習慣が商談中の気づきを増やす
メタ認知は、生まれ持ったセンスだけで決まるものではありません。
その力を磨く方法の1つが、第10話で紹介した「商談直後の5分間のAAR」です。
AARでは、商談が終わった後に次の4つを振り返りました。
- 今回の商談で何を目指したのか
- 実際に何が起きたのか
- なぜ、それが起きたのか
- 次はどうするのか
この振り返りを繰り返していると、商談後だけでなく、商談中にも自分の状態や相手の反応に気づきやすくなります。
例えば、バイヤーから、
来月の導入は難しいですね。
と言われたとします。
これまでは、その言葉を聞いた瞬間に「そうですか」と引き下がったり、反対に、採用してもらおうと商品説明を重ねたりしていたかもしれません。
しかし、自分を一段引いて見られると、次のようなことに気づけます。
今、自分は断られることを恐れて、早口で説明を続けようとしている。
そして、自分の話を止めることで、バイヤーの様子を見る余裕が生まれます。
バイヤーは「1店舗あたり6日に1個」という販売目標を示したページで手を止め、資料を見ている。何か気になる点があるのかもしれない。
ここで大切なのは、バイヤーのしぐさだけを見て、懸念の内容を決めつけないことです。
手が止まったことは観察できた事実ですが、なぜ止まったのかは、まだ分かりません。
気づいたら説明を止めて相手に確認する
バイヤーの反応に気づいたら、推測だけで結論を出さず、本人に確認します。
例えば、次のように問いかけます。
この販売目標について、店舗で実施するうえで気になる点はありますか?
すると、バイヤーから、
数字そのものよりも、この売場展開を各店舗で実施できるかが気になります。
といった、具体的な懸念を聞けるかもしれません。
「表情が曇ったから、店舗オペレーションを懸念しているはずだ」と決めつけるのではありません。
相手の反応に気づき、説明を止めて質問し、本人の言葉で確認する。この一連の動きが、商談を対話に変えます。
どれほど提案書をつくり込んでも、商談を動かすのは、その場にいる相手とのやり取りです。
一方で、提案書や「決めの1枚」の準備が不要になるわけではありません。
事前に、
バイヤーは、ここを懸念するのではないか。
という仮説を用意しているからこそ、営業担当者は資料の説明だけに追われず、実際の反応との違いに気づけます。
- 商談前に反論を予測する
- 「決めの1枚」を準備する
- 商談中に自分と相手の反応を観察する
- 仮説と違えば、説明を止めて質問する
- 商談後にAARで振り返る
この繰り返しによって、自分の話し方を客観的に捉え、バイヤーの反応に合わせて対話を修正する力が磨かれていきます。
メタ認知とは、商談中に何でも冷静に分析することではありません。
まずは、
今、自分は一方的に話していないか?
と気づき、一度説明を止める。
この小さな行動から、自分たちの商談の型を進化させていきましょう。
次回予告
提案書作成術 第12回:『誰から買うか』が重要な時代に選ばれる営業の条件
AIによって商品や市場の情報を簡単に収集できる時代に、営業担当者にはどのような価値が求められるのでしょうか。
次回は、「決めの1枚」とAARを軸に、これまでの商談の型を振り返りながら、バイヤーから相談相手として選ばれる営業の条件と、営業という仕事の面白さについてお話しします。