
情報を説明するだけの営業は選ばれにくくなる
これまで11回にわたり、PREPによる提案の骨子づくりから、カタログ型提案書の「引き算」、バイヤーの反論予測と要因分析、「決めの1枚」の作成、商談後のAARまで、一連の商談の型についてお伝えしてきました。
最終話となる今回は、なぜ今、こうした型を身につけ、商談力を磨く必要があるのか。
これからの時代に求められる営業のあり方について、私の考えを率直にお話しします。
食品業界を取り巻く環境は、大きく変化しています。
生成AIを使えば、企業や商品、市場に関する公開情報を短時間で収集し、要約できるようになりました。バイヤーが商談前に、提案される商品やメーカーについて調べることも、以前より容易になっています。
こうした環境の中で、
- 商品スペックを詳しく説明する
- 市場データをきれいにまとめて見せる
- 本部から支給された資料を順番に読み上げる
というだけでは、営業担当者ならではの価値を示しにくくなります。
もちろん、正確な商品情報や市場データは必要です。しかし、それらは提案の材料であって、提案そのものではありません。
これからの営業に求められるのは、情報を伝えることだけではなく、
この情報は、得意先の売場にとってどのような意味を持つのか。
この商品を導入すると、得意先の課題をどう解決できるのか。
実際に店舗で動かすには、どのようなプランが必要なのか。
まで考え、得意先に合った提案へ変えることです。
どれほど見栄えがよく、論理的に整った提案書でも、それだけで採用が決まるわけではありません。
最後に問われるのは、この営業担当者が得意先の現実をどこまで理解し、実行まで一緒に考えてくれるのかという信頼です。
選ばれる営業は得意先の現実から提案を考える
では、「誰から買うか」が問われるとき、選ばれる営業とはどのような存在でしょうか。
それは、自社の商品を熱心に売り込むだけの人ではありません。
得意先が抱える人手不足や売場の課題、カテゴリーの売上目標などを理解し、実行可能なプランを一緒に考えられる人です。
今回の連載で紹介してきたプロセスを実践すると、商談は次のように変わります。
- PREPで提案の骨子をつくり、得意先が採用する理由を明確にする
- 商談目的に直接つながらないスライドを引き算する
- 「1店舗あたり6日に1個」など、売場でイメージできる数字を示す
- バイヤーの反論を予測し、その背景にある要因を考える
- 懸念への解決策を「決めの1枚」として言葉にする
- 卸の担当者と事前に仮説や落としどころを確認する
- 商談中は相手の反応を見ながら、説明を止めて質問する
- 商談後はAARで仮説とのズレを振り返る
こうした商談を繰り返す営業担当者は、商品の説明役ではありません。
得意先の課題を一緒に考え、仮説を持って提案し、結果を見ながらプランを修正していく相談相手です。
「決めの1枚」も、一度つくって終わりではありません。
商談でバイヤーから得た反応や、AARで気づいたズレをもとに修正し、次の商談で試します。
型とは、決められたとおりに話すための台本ではありません。
現場で考え、試し、振り返り、進化させるための土台です。
この型を使い続けることで、営業担当者は、得意先の現実を踏まえて提案を組み立てられるようになります。その積み重ねが、「まず、この人に相談してみよう」と思ってもらえる関係につながります。
「決めの1枚」とAARが組織の会話を変える
私が営業組織の支援で目指しているのは、単に「採用される提案書の作り方」を伝えることではありません。
その先にある、日常業務における会話の質を変えることです。
営業担当者が商談から戻ってきたとき、マネジャーが、
採用されたのか、不採用だったのか?
と結果だけを確認する。
これでは、会話が報告と管理で終わってしまいます。
一方、商談前に反論の仮説を立て、商談後にAARで振り返る習慣があれば、マネジャーの問いも変わります。
商談前に予測した障害は合っていた?
実際にバイヤーが懸念したのは何だった?
仮説と事実は、どこがずれていた?
次の商談では何を変える?
こうした問いによって、営業担当者は結果を報告するだけでなく、自分の商談を振り返り、次の行動を考えられます。
「決めの1枚」という共通の型を持ち、AARによる振り返りを習慣にする。
それによって、営業組織の日常会話は、
報告と管理
から、
仮説と検証
へ変わっていきます。
また、ベテラン営業担当者が経験の中で身につけてきた知見も、口頭のアドリブで終わらせず、「決めの1枚」として組織に残せるようになります。
経験の浅い営業担当者は、それをそのまままねるのではなく、
なぜ、この反論を予測したのか。
なぜ、この言葉に変換したのか。
なぜ、このスライドでバイヤーが納得したのか。
を考えながら、自分の商談へ応用できます。
自分で仮説を立て、相手と対話し、その結果を振り返って次の行動を変える。
営業は、決められた資料を読み上げる仕事ではありません。自分の考えを現場で試し、相手との対話を通じて、提案を進化させていく仕事です。
だからこそ、営業という仕事は、知的で面白い。
提案書が変わると、商談の進め方が変わります。商談が変わると、バイヤーとの会話が変わります。そして、会話が変わると、売場を動かせる可能性が高まります。
今回お届けした商談の型が、食品メーカーの営業担当者一人ひとりの強みを生かし、日々の営業活動を少しでも面白いものにする手助けになれば幸いです。
次回予告
PREPによる骨子づくりから、不要なスライドの引き算、バイヤーの反論予測、「決めの1枚」、卸との事前商談、商談後のAARまで。これまで紹介してきた内容を、商談前・商談中・商談後の流れに沿って振り返ります。
すべてを一度に実践する必要はありません。自分の商談で改善したいところを見つけ、必要な回を読み返すための案内図としてご活用ください。